幸せな王子
オスカー・ワイルド(著)
すぐいじける女の子(訳)
すぐいじける女の子(絵)
市の高いところ更に高い柱の上、幸せな王子の銅像がありました。彼は全身金箔に塗られていて、二つの輝くサファイアの瞳を持ち、大きくて赤いルビーを剣の柄に光らせていました。
人々は彼を敬愛しました。「彼は風見鶏のように美しい」と、芸術の趣味が良いと言われたかった町の議員が言いました。彼は自分がとても実用的な人なのに、人々にそうではないと思われるのを恐れて、「有用でもあるし」と付け加えました。
「幸せな王子を見習ったらどうなの？」手に入らないものが欲しいと泣きながら駄々をこねる子供に、懸命な母親はこう言いました。「幸せな王子は何も泣いて求めたりしなかったんだよ」
「世の中に誰か幸せな人がいてよかったよ」落ち込んでいた男はあの美しい銅像を見つめてこうつぶやきました。
「彼は天使みたい」きれいな白いドレスに明るい緋色のマントを身にまとった慈善団体の子供たちが聖堂から出てきながらこう言いました。
「どうして分かるの？」算数の先生が聞きました。「天使を見たことはないでしょう？」
「そうです！でも私たちみんな、夢では見たことがあるんです」子供たちが答えました。すると算数の先生は子供たちが夢見ることを許可してなかったので、顔をしかめて怖い目をしました。
ある夜、小さなツバメが町に飛んできました。彼の友達はみんな六週間前にエジプトに行きましたが、彼は世界で一番きれいな葦に恋をしてしまって、まだこの町に残されていたのです。彼は春のはじめ、大きくて黄色い虫を追っかけて川を下っているときに彼女に出会って、あの細い腰に魅了されて、足を止め彼女に話しかけました。
「好きになってもいいかな？」ツバメは言いたいことを正直に言うことが好きだったので、このように聞いてみると、葦は彼に深く頷いてみせました。そして彼は彼女のまわりを飛び続けて、羽で水面を叩いて白いさざ波を立てました。このような求愛は、夏までずっと続きました。
「おかしい組み合わせじゃない」他のツバメたちが噂しました。「彼女はお金もないし、親戚も多すぎる」確かに川には葦がたくさんあったのです。秋が来るとツバメたちはみんな去っていきました。
みんなが去ったあと寂しい想いをして、彼は恋人に疲れを感じはじめました。「彼女はなにも言ってくれない」彼はこう言いました。「彼女はもしかして浮気性かも。いつも風と戯れているじゃない」確かに風がひく度に、葦は最も優雅なおじぎを見せたのです。「彼女はこの川にいるべきというのは分かるけど」ツバメは続けて言いました。「でも僕は旅が好きなんだ。だから僕の妻も旅が好きでないといけない」
「一緒に来てくれる？」ついに彼が彼女に聞きました。でも葦は首をふりました。彼女は川から離れられなかったのです。
「君は僕をもてあそんだだけなのね」彼は怒りました。「ピラミッドへ向かうよ。さようなら」そうやって彼は飛び去りました。
一日中飛び続け、夜やっと市に着きました。「どこで泊まればいいのかな？」彼は考えました。「この町になにかあるといいのだが」
そのとき彼は高い柱の上の銅像を見つけたのです。
「ここで泊まろう」彼は声をあげました。「さわやかな空気がいっぱいな良い場所だ」それで彼は幸せな王子の両足の間に降りました。
「これは黄金の寝室だな」彼はまわりを見渡しながら小さい声でつぶやいて、そろそろ寝ようとしていました。でも彼が頭を羽の下においたそのとき、大きい水の粒が落ちてきたのです。「なんだこれは」彼が大きい声で言いました。「空には雲ひとつないし、星もあんなにきれいに輝いているのに、雨だなんて。北欧の天気ってものは本当に恐ろしいね。葦は雨が好きだったけど、そんなのただの彼女のわがままだったし」
そしてまた水の粒が落ちました。
「雨も防いでくれない銅像なんて使えないじゃない」彼は言いました。「煙突でも探してみるしかないな」そうやって彼は飛び去ろうと思いました。
でも羽を広げる前に、三つ目の粒が落ちて、上を向いてみると、見えたのです。ああ、彼はなにを見たのでしょう？
幸せな王子の目は涙でいっぱいで、涙は彼の黄金の頬を流れて落ちていたのです。彼の顔は月光の中でとてもきれいだったので小さなツバメは哀れの気持ちで胸がいっぱいになりました。
「あなたは誰ですか？」彼が聞きました。
「私は幸せな王子なんだ」
「なぜ泣いているんですか？」ツバメが聞きました。「あなたのせいでずぶ濡れになっちゃいましたよ」
「私が生きていて人の心臓を持っていたときは」銅像が答えました。「悲しみの入場が禁じられていたサンスーシ宮殿で生きていた間は、涙とはなにかさえ分からなかった。昼間は友達と庭園で遊んで、夕方は大広間でダンスを踊った。庭園はとても高い壁に囲まれていたけど、私はその裏になにがあるか聞いてみようとも思わなかった。執事たちは私を幸せな王子と呼んだ、そう、幸せだったんだ、楽しみが幸せだとしたらね。そうやって生きて、そして私は死んだ。死んだ私はこんなに高いところに置かれたので、今の私にはこの市の醜いことや惨めなことが全て見えてしまう。いくら私の心臓が鉛でできているとはいえ、泣かずにはいられない。」
「なんと！彼は金の塊じゃなかったのか？」ツバメがつぶやきました。彼はとても礼儀正しかったので、失礼なことを大きい声で言ったりはしなかったのです。
「遠くに」銅像が低くて美しい声で続けました。「遠くの小さい通りに貧しい家がある。窓が一つ開いていて、そこから女性が一人テーブルについているのが見える。彼女の顔はやせていて、疲れきった感じで、手はあちこち針に刺されて赤く荒れている。裁縫師なのだ。彼女は次の舞踏会で最も可愛らしい女王の侍女が着る繻子のドレスにトケイソウの刺繍を入れている。部屋の隅のベッドでは彼女の幼い息子が病気で寝ている。彼には熱があって、オレンジを食べたいと言っている。お母さんは彼に川水しかあげられなくて、彼は泣いている。ツバメよツバメよ小さなツバメよ、私の剣の柄にあるルビーを彼女に持っていってくれないか？私の足はこの台にくっついていて動くことができないんだ」
「エジプトに行かなければ」ツバメがいいました。「僕の友達はナイル川を飛んで上ったり下ったり、大きい蓮の花に話しかけたりしています。まもなく彼らは偉大な王様の墓で眠るでしょう。王様は彩られた棺の中にいます。黄色いリネンに包まれ、香油でミイラになっています。彼の首まわりは青緑色の翡翠の首輪で飾られていて、また彼の両手は枯葉のようです」
「ツバメよツバメよ小さなツバメよ」王子が言いました。「もう一晩だけ私のそばにいて、私の使者になってくれないか？あの男の子はとても喉が渇いていて、お母さんがすごく悲しんでいるのだ」
「男の子は好きじゃないです」ツバメが答えました。「前の夏、川で過ごしていたときに、粉屋の息子で、乱暴な男の子たちが二人いて、僕にいつも石を投げつけてました。僕たちツバメは自由自在に飛べて、僕ったらその中でも俊敏で有名だったので、もちろん当たったことはないですけど。それでも、あれはかなり不愉快だったのです」
でも幸せな王子がすごく悲しく見えたのでツバメは気の毒だと思いました。「ここはとても寒いです」彼は言いました。「でももう一晩だけあなたのそばにいて、あなたの使者になります」
「ありがとう、小さなツバメよ」王子が言いました。
それでツバメは王子の剣からルビーを取り出して、くちばしに入れて町並みの上を飛んでいきました。
彼は天使たちが大理石で彫刻されている大聖堂の塔を通り過ぎました。彼は宮殿を通り過ぎ踊りの音を聞きました。あるきれいな女の子が恋人と一緒にバルコニーに出てきました。「星がとても素敵だね」彼が彼女に言いました。「恋の力も素敵だよ」
「国の舞踏会までドレスが間に合うといいのにね」彼女が答えました。「トケイソウの刺繍が入ったものを注文したわ。でも裁縫師たちはとても遅いのよ」
彼は川を通り過ぎ、船の帆柱に灯籠がつるされるのを見ました。彼はユダヤ人街を通り過ぎ、年老いたユダヤ人たちが取引をしたり、銅の天秤でお金の重さを量るのを見ました。ついに彼はあの貧しい家に着いて中を覗きました。男の子は暑苦しそうに寝返りを打っていて、お母さんは疲れきって眠りに落ちていました。彼は家に入っては、テーブルの指ぬきの隣に大きいルビーを置きました。そしてベッドの上を優しく一回り飛んで、男の子の額を羽で煽ってあげました。「涼しい！」男の子が言いました。「僕良くなってるみたい」彼は甘い眠りに落ちました。
その後ツバメは幸せな王子のところに戻ってきて、やったことを彼に伝えました。「おかしいです」彼は言いました。「こんなに寒いのに、暖かい感じがするんです」
「それは君が良いことをしたからだよ」幸せな王子がいいました。ツバメは考えはじめては、眠りに落ちてしまいました。考えるといつも眠くなるのです。
日が明けると彼は川に飛び降りて体を洗いました。「なんという珍しい現象なんだ」橋を渡っていた鳥類学の教授が言いました。「冬にツバメだなんて！」彼は地方紙に送るための長い手紙を書きました。みんながその記事を読んで話していましたが、記事は理解できない言葉だらけでした。
「今晩こそエジプトに行こう」ツバメが言いました。彼は期待に胸を膨らませていました。彼は有名な記念塔を全て訪れて、教会の尖塔の上で長い間とまっていました。彼の行く先々雀たちがチュッチュッと騒ぎました。「なんという変わった客なの！」彼はそれを内心楽しんでました。
月が昇り彼は幸せな王子のもとに戻ってきました。「エジプトになにか便りはありますか？」彼が声をあげました。「すぐ出発しますから」
「ツバメよツバメよ小さなツバメよ」王子が言いました。「もう一晩だけ私のそばにいてくれないか？」
「エジプトに行かなければ」ツバメが言いました。「明日僕の友達は第二急流に飛んでいきます。カバたちはパピルスの間に横たわっていて、大きい花崗岩の王座にはメムノン神が座っています。彼は夜中ずっと星を眺めて、一番星が光ると喜びの嘆声をあげ、そのあとは沈黙します。正午には黄色いライオンたちが水を飲みに水辺に降りてきます。彼らの目はエメラルドのような緑で、吠え声は急流の音よりも大きいです」
「ツバメよツバメよ小さなツバメよ」王子が言いました。「市の向こう遠いところに屋根裏にいる若い男が見える。彼は紙で覆われている机にかがみ込んでいて、近くにはしぼんだスミレがたくさん挿されたコップが置かれている。髪は茶色くボサボサで、唇はザクロのように赤くて、大きくて夢に満ちた目をしている。劇場の演出家に送る脚本を書こうとしているけど、あまりに寒いのでこれ以上は書けずにいる。暖炉には火がついていないし、ひもじくて意識を失いそうだ」
「もう一晩だけあなたのそばにいてあげます」心優しいツバメが言いました。「他のルビーを彼に渡せばいいですか？」
「ああ！ルビーはもうないんだ」王子が言いました。「残っているのは私の目だけ。これらは千年前にインドから持ち込まれた、珍しいサファイアで作られている。一つ取り出して彼に持っていきなさい。彼はそれを宝石商に売って、食べ物や薪を買って、脚本を終わらせることができるだろう」
「王子さま」ツバメが言いました。「それはできないです」彼は泣きはじめました。
「ツバメよツバメよ小さなツバメよ」王子が言いました。「これは命令なのだ」
それでツバメは王子の目を取り出して、あの学生の屋根裏部屋に飛んでいきました。屋根に穴が開いていたので、入るのは簡単でした。穴を通って飛んでいき、部屋の中に入りました。若い男は両手で頭をかかえていたので、羽ばたきの音は聞こず、ふと上を見上げたら、しぼんだスミレ束の上にサファイアが置かれていました。
「私の才能が評価されはじめてる」彼が叫びました。「大ファンが送ってくれたんだ。これで脚本を書き終えることができる」彼はとても幸せに見えました。
「あなたは誰ですか？」彼が聞きました。
「私は幸せな王子なんだ」
「なぜ泣いているんですか？」ツバメが聞きました。「あなたのせいでずぶ濡れになっちゃいましたよ」
「私が生きていて人の心臓を持っていたときは」銅像が答えました。「悲しみの入場が禁じられていたサンスーシ宮殿で生きていた間は、涙とはなにかさえ分からなかった。昼間は友達と庭園で遊んで、夕方は大広間でダンスを踊った。庭園はとても高い壁に囲まれていたけど、私はその裏になにがあるか聞いてみようとも思わなかった。執事たちは私を幸せな王子と呼んだ、そう、幸せだったんだ、楽しみが幸せだとしたらね。そうやって生きて、そして私は死んだ。死んだ私はこんなに高いところに置かれたので、今の私にはこの市の醜いことや惨めなことが全て見えてしまう。いくら私の心臓が鉛でできているとはいえ、泣かずにはいられない。」
「なんと！彼は金の塊じゃなかったのか？」ツバメがつぶやきました。彼はとても礼儀正しかったので、失礼なことを大きい声で言ったりはしなかったのです。
「遠くに」銅像が低くて美しい声で続けました。「遠くの小さい通りに貧しい家がある。窓が一つ開いていて、そこから女性が一人テーブルについているのが見える。彼女の顔はやせていて、疲れきった感じで、手はあちこち針に刺されて赤く荒れている。裁縫師なのだ。彼女は次の舞踏会で最も可愛らしい女王の侍女が着る繻子のドレスにトケイソウの刺繍を入れている。部屋の隅のベッドでは彼女の幼い息子が病気で寝ている。彼には熱があって、オレンジを食べたいと言っている。お母さんは彼に川水しかあげられなくて、彼は泣いている。ツバメよツバメよ小さなツバメよ、私の剣の柄にあるルビーを彼女に持っていってくれないか？私の足はこの台にくっついていて動くことができないんだ」
「エジプトに行かなければ」ツバメがいいました。「僕の友達はナイル川を飛んで上ったり下ったり、大きい蓮の花に話しかけたりしています。まもなく彼らは偉大な王様の墓で眠るでしょう。王様は彩られた棺の中にいます。黄色いリネンに包まれ、香油でミイラになっています。彼の首まわりは青緑色の翡翠の首輪で飾られていて、また彼の両手は枯葉のようです」
「ツバメよツバメよ小さなツバメよ」王子が言いました。「もう一晩だけ私のそばにいて、私の使者になってくれないか？あの男の子はとても喉が渇いていて、お母さんがすごく悲しんでいるのだ」
「男の子は好きじゃないです」ツバメが答えました。「前の夏、川で過ごしていたときに、粉屋の息子で、乱暴な男の子たちが二人いて、僕にいつも石を投げつけてました。僕たちツバメは自由自在に飛べて、僕ったらその中でも俊敏で有名だったので、もちろん当たったことはないですけど。それでも、あれはかなり不愉快だったのです」
でも幸せな王子がすごく悲しく見えたのでツバメは気の毒だと思いました。「ここはとても寒いです」彼は言いました。「でももう一晩だけあなたのそばにいて、あなたの使者になります」
「ありがとう、小さなツバメよ」王子が言いました。
それでツバメは王子の剣からルビーを取り出して、くちばしに入れて町並みの上を飛んでいきました。
彼は天使たちが大理石で彫刻されている大聖堂の塔を通り過ぎました。彼は宮殿を通り過ぎ踊りの音を聞きました。あるきれいな女の子が恋人と一緒にバルコニーに出てきました。「星がとても素敵だね」彼が彼女に言いました。「恋の力も素敵だよ」
「国の舞踏会までドレスが間に合うといいのにね」彼女が答えました。「トケイソウの刺繍が入ったものを注文したわ。でも裁縫師たちはとても遅いのよ」
彼は川を通り過ぎ、船の帆柱に灯籠がつるされるのを見ました。彼はユダヤ人街を通り過ぎ、年老いたユダヤ人たちが取引をしたり、銅の天秤でお金の重さを量るのを見ました。ついに彼はあの貧しい家に着いて中を覗きました。男の子は暑苦しそうに寝返りを打っていて、お母さんは疲れきって眠りに落ちていました。彼は家に入っては、テーブルの指ぬきの隣に大きいルビーを置きました。そしてベッドの上を優しく一回り飛んで、男の子の額を羽で煽ってあげました。「涼しい！」男の子が言いました。「僕良くなってるみたい」彼は甘い眠りに落ちました。
その後ツバメは幸せな王子のところに戻ってきて、やったことを彼に伝えました。「おかしいです」彼は言いました。「こんなに寒いのに、暖かい感じがするんです」
「それは君が良いことをしたからだよ」幸せな王子がいいました。ツバメは考えはじめては、眠りに落ちてしまいました。考えるといつも眠くなるのです。
日が明けると彼は川に飛び降りて体を洗いました。「なんという珍しい現象なんだ」橋を渡っていた鳥類学の教授が言いました。「冬にツバメだなんて！」彼は地方紙に送るための長い手紙を書きました。みんながその記事を読んで話していましたが、記事は理解できない言葉だらけでした。
「今晩こそエジプトに行こう」ツバメが言いました。彼は期待に胸を膨らませていました。彼は有名な記念塔を全て訪れて、教会の尖塔の上で長い間とまっていました。彼の行く先々雀たちがチュッチュッと騒ぎました。「なんという変わった客なの！」彼はそれを内心楽しんでました。
月が昇り彼は幸せな王子のもとに戻ってきました。「エジプトになにか便りはありますか？」彼が声をあげました。「すぐ出発しますから」
「ツバメよツバメよ小さなツバメよ」王子が言いました。「もう一晩だけ私のそばにいてくれないか？」
「エジプトに行かなければ」ツバメが言いました。「明日僕の友達は第二急流に飛んでいきます。カバたちはパピルスの間に横たわっていて、大きい花崗岩の王座にはメムノン神が座っています。彼は夜中ずっと星を眺めて、一番星が光ると喜びの嘆声をあげ、そのあとは沈黙します。正午には黄色いライオンたちが水を飲みに水辺に降りてきます。彼らの目はエメラルドのような緑で、吠え声は急流の音よりも大きいです」
「ツバメよツバメよ小さなツバメよ」王子が言いました。「市の向こう遠いところに屋根裏にいる若い男が見える。彼は紙で覆われている机にかがみ込んでいて、近くにはしぼんだスミレがたくさん挿されたコップが置かれている。髪は茶色くボサボサで、唇はザクロのように赤くて、大きくて夢に満ちた目をしている。劇場の演出家に送る脚本を書こうとしているけど、あまりに寒いのでこれ以上は書けずにいる。暖炉には火がついていないし、ひもじくて意識を失いそうだ」
「もう一晩だけあなたのそばにいてあげます」心優しいツバメが言いました。「他のルビーを彼に渡せばいいですか？」
「ああ！ルビーはもうないんだ」王子が言いました。「残っているのは私の目だけ。これらは千年前にインドから持ち込まれた、珍しいサファイアで作られている。一つ取り出して彼に持っていきなさい。彼はそれを宝石商に売って、食べ物や薪を買って、脚本を終わらせることができるだろう」
「王子さま」ツバメが言いました。「それはできないです」彼は泣きはじめました。
「ツバメよツバメよ小さなツバメよ」王子が言いました。「これは命令なのだ」
それでツバメは王子の目を取り出して、あの学生の屋根裏部屋に飛んでいきました。屋根に穴が開いていたので、入るのは簡単でした。穴を通って飛んでいき、部屋の中に入りました。若い男は両手で頭をかかえていたので、羽ばたきの音は聞こず、ふと上を見上げたら、しぼんだスミレ束の上にサファイアが置かれていました。
「私の才能が評価されはじめてる」彼が叫びました。「大ファンが送ってくれたんだ。これで脚本を書き終えることができる」彼はとても幸せに見えました。
次の日ツバメは港湾に飛び降りました。彼は大きい船の帆柱にとまって船員たちが船倉から大きい箱をロープで引っ張ることを見ていました。「よいしょ！」箱が一つ出てくる度に彼らは声をあげました。
「別れの挨拶をしにきました」彼が大きい声で言いました。
「ツバメよツバメよ小さなツバメよ」王子が言いました。「もう一晩だけ私のそばにいてくれないか？」
「もう冬です」ツバメが答えました。「もうじきここには冷たい雪が降ります。エジプトでは緑のヤシの木の上で太陽が暖かく光り、ワニたちは泥のなかでのんびりしています。僕の仲間たちはバールベック神殿に巣を作り、ピンクと白の鳩たちが彼らを見ていて、クークーと言葉を交わしています。王子さま、僕は旅立たなければいけませんが、あなたのことは絶対忘れないでいて、来年の春あなたが贈った二つの美しい宝石を持ってきます。ルビーは赤い薔薇よりも赤く、サファイアは大洋のように青いはずです」
「下の広場に」幸せな王子が言いました。「小さいマッチ売り少女が立っている。マッチを溝に落としてしまって、全部使えなくなってしまった。お父さんは彼女がお金を持ってこなければ彼女を殴るので、それで泣いている。彼女は靴下も靴も履いてなくて、小さい頭にもなにもかぶっていない。私の残った目を取り出して彼女に渡し、お父さんに殴られないようにしてあげなさい」
「もう一晩あなたのそばにいます」ツバメが言いました。「でも目を取り出すことはできません。そうするとあなたは目が見えなくなってしまいます」
「ツバメよツバメよ小さなツバメよ」王子が言いました。「これは命令なのだ」
彼は王子の残った目を取り出して、飛んでいきました。彼はマッチ売り少女のところに飛び降りて、彼女の手のひらに宝石をそっと置きました。「なんというきれいなガラスなの！」少女が叫びました。そして笑いながら家へ走りました。
ツバメは王子の元に戻ってきました。「もう見えないでしょう」彼は言いました。「だから僕がずっとあなたのそばにいます」
「いけない、小さなツバメよ」哀れな王子が言いました。「君はエジプトに行かなければいけない」
「僕はずっとあなたのそばにいます」ツバメがこう言って、王子の足で眠りました。
次の日彼は王子の肩にとまり、外国で見てきたことについて話しました。川の土手で長い行列を作って、金色の魚をくちばしで獲る赤いトキについて話しました。この世と同じぐらい年寄りで、砂漠に住んでいる、知らないことのないスピンクスについて話しました。ラクダの隣でゆっくりと歩いて、琥珀の数珠を手に持って運ぶ商人たちについて話しました。大きい水晶を崇拝する、伝説の山脈の漆黒のような王様について話しました。二十人の神官たちがハチミツのケーキを与えている、ヤシの木の中で眠る大きい緑の蛇について話しました。そして大きな葉っぱで広い湖を渡り、いつも蝶々たちと戦っている小人族について話しました。
「ツバメよ」王子が言いました。「驚くべき話なんだけど、もっと驚くべきなのは男や女の苦しみなんだ。絶望より不可解なことはない。私の市の上を飛んで、小さなツバメよ、そして見たことを話してくれないか」
それでツバメは大きい市を飛び回り、お金持ちがきれいなお家で楽しんでいる間に、門の前には乞食たちが座り込んでいることを見ました。彼は暗い路地に飛んでいき、黒い道をぼっと眺めているひもじい子供たちの蒼白な顔を見ました。橋のアーチの下で二人の少年たちがお互い腕枕をして暖まろうとしていることを見ました。「おなかがすいた！」彼らは言いました。「ここで横になってはいけない」と見張り人がどなったので、彼らは雨のなかをさまよい歩いて去りました。
彼は戻ってきて王子に見たことを話しました。
「私は純金でおおわれている」王子が言いました。「それを一枚ずつ剥がして、貧しい者たちに渡しなさい。生きている者は黄金で幸せになれると思っているのだ」
幸せな王子が灰色で冴えない感じになるまで、ツバメは純金を一枚ずつ剥がしていきました。純金を一枚一枚貧しい者に運ぶにつれ、子供たちの顔は赤みを増していき、彼らは街で笑って遊ぶようになりました。「今は食べ物があるんだもの！」子供たちは騒ぎました。
雪が降り、雪の後は霧が降りました。街は銀でできたかのように、とても明るくてキラキラ光っていました。長い氷柱は水晶の短剣のように家々の軒下にぶら下がり、みんなは毛皮をはおって出かけ、少年たちは緋色の帽子をかぶり氷の上でスケートを滑りました。
哀れな小さいツバメは日に日に寒くなっていきましたが、王子を去るつもりはありませんでした。彼は王子をとても愛していたのです。彼はパン屋さんが見てないときにこっそり扉でパンくずを拾い上げたり、羽をパタパタとさせて暖まろうとしました。
でも最後は死ぬはずということを彼は知っていました。彼には王子の肩にもう一度やっと飛び乗れるほどの力しか残ってませんでした。「さようなら、王子さま」彼がささやきました。「あなたの手にキスしてもいいですか？」
「ついに君がエジプトに行くことをとても嬉しく思う、小さなツバメよ」王子が言いました。「ここに長居し過ぎたんだ。私も君を愛しているので、キスは唇にするべきだ」
「行き先はエジプトではありません」ツバメが言いました。「僕は死の家に行きます。死は眠りの兄弟なんですよね？」
そして彼は幸せな王子の唇にキスをして、彼の足に落ちて死にました。
その瞬間銅像の中から、なにかが壊れたのようなパキッとしたおかしい音がしました。実は鉛の心臓が真っ二つに折れたのでした。それは恐ろしいほどひどく凍り付いてました。
次の日の朝市長は町の議員たちとともに広場を歩いていました。柱を通り過ぎようとしたとき彼は銅像を見上げて言いました。「なんということだ！幸せな王子がこんなにみずぼらしいなんて！」
「こんなにみずぼらしいなんて！」いつも市長に同意する議員たちが声を上げました。そして彼らは銅像を良く見るために上っていきました。
「ルビーは剣から消えていて、両目もなくなっているし、それにもう金色でもない」市長が言いました。「正直、乞食の姿とあまり変わらないじゃないか！」
「変わらないじゃないか！」議員たちが言いました。
「更に足下には死んだ鳥がいる！」市長が続けました。「我々は鳥がここで死んではいけないとの声明書を出す必要がある」町の管理人がその提案を書き下ろしました。
そして彼らは幸せな王子の銅像を引き下ろしました。「彼はもう美しくもなく、実用的でもない」大学の芸術の教授が言いました。
その後彼らは溶鉱炉で銅像を溶かして、市長はその金属をどうするかを決めるために議会を開きました。「当然他の銅像を建てるべきです」彼が言いました。「それは私の銅像であるべきです」
「私の銅像であるべきです」議員のみんながこう言って、口論しはじめました。私が最後に彼らを見ていたときまで彼らはずっと口論をしていました。
「なんて不思議なことなんだ！」工場の現場監督が言いました。「この割れた心臓は溶鉱炉でも溶けない。捨てるしかない」それで彼らは心臓をツバメの死体が置いてあるゴミ捨て場に捨てました。
「この市で最も尊いものを二つ持ってきなさい」神様が天使の一人に命じました。すると天使は鉛の心臓と死んだ鳥を持ってきました。
「君の選択は正しい」神様が言いました。「天国の庭園でこの小さな鳥は永遠に歌を歌い、金色の都市で幸せな王子は私を讃えることとしよう」
Ver1.0
現在絶賛推敲中(2011.06.21)
幸せな王子 by すぐいじける女の子 is licensed under a Creative Commons 表示 - 非営利 3.0 非移植 License.
www.gutenberg.orgにある作品に基づいている。
